はじめて見た祖父の男泣き

はじめて見た祖父の男泣き

はじめて見た祖父の男泣き

 

私の父が亡くなり、お葬式を上げたのは、
もう半年も前のことでしょうか。

 

父が亡くなることは、もう一年前から分かっていたことでした。

 

病状が重くなり、病院から出られなくなり、仕事も
辞めざるを得ませんでした。

 

仕事一筋で生きてきた父親には、地域の人とのつながりは
ゼロ。

 

職場の人たちとも、もうつながりは切れています。

 

うちがあるのは転勤族が住んでいるベッドタウンであり、
祖父母も同様、気兼ねする近所関係もありません。

 

親戚も、父親と母親のきょうだいとその子供の範囲に
とどめてもらいました。

 

生前から、父親がそうしてほしいと言っていたからです。

 

本当にこじんまりとした家族葬で、何よりも理屈を
優先した生前の父の意向もあり、お葬式は
無宗教葬になりました。

 

お坊さんも来なければ、お焼香もありません。

 

お葬式と言うより、お別れの会とでも言うべきでしょうか。

 

私の父のお葬式は、そんなものでした。

 

お通夜は和やかに談笑していたのですが、
いざお葬式となると、ピンと空気が張り詰めました。

 

あらかじめ書いてきた文章を読む母の声が震えます。

 

そして、次に祖父にお別れの言葉を言う番が
まわってきたとき祖父は、棺桶の上に崩れ落ちました。

 

気丈で父同様理屈っぽいところのある祖父が
泣くのをはじめて見るのは、初めてでした。

 

思えば、祖父は親戚と縁を切っており、
ごく近しい人のお葬式に出るのはこれが初めてでした。

 

それも長男の逆縁の、となると
悔しくてたまらないのでしょう。

 

お別れの言葉は、声になっていませんでした。

 

今でも、父のお葬式と言うと、あのときの祖父の
様子を思い出します。

 

あれ以降、祖父は急激に老け込んでしまいました。

 

父親さえ生きていれば。

 

叶わないと分かっていてもそう思ってしまい、
悔しい気持ちで今もいっぱいです。


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